過去のご挨拶2019
10年目のご挨拶 (2019年4月) ~さらに、10年後、20年後の展開を見据えて~
大阪大学大学院医学系研究科・生命機能研究科 免疫細胞生物学教室を担当しております石井 優です。この度は私どものホームページをご訪問頂き、ありがとうございます。今年2019年4月で私は、2009年4月に大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)で、PIとして初めて自身の研究室を立ち上げてちょうど10年(IFReCで4年、医学系研究科で6年)になります。また先を見ますと、定年退職まで現時点であと20年でもあります。以前から10年毎に新たな挑戦を目指したいと考えておりましたので、この機に心新たにしてご挨拶も一新させて頂きたく思います。
私はリウマチ内科医としてのバックグラウンドの中で、骨を壊すマクロファージ=破骨細胞に魅せられて研究を進め、最新のイメージング技術を用いて生きた骨組織内でそれらのありのままの姿を解明することに成功しました。この10年間の私の研究室では、骨を始めとする様々なイメージング系を立ち上げて生命科学研究の標準プロトコールとして確立させることができ、また、免疫・炎症、がんなどの多種多彩な細胞動態とその制御機構を解析する中で、“形”から自然を理解するサイエンス「形態学」を昇華させ、“動き”から自然を理解する「動態学」と呼ぶべき新しい学理の樹立に貢献できたと思っております。
さて、こういった展開の先に、次の10年には何をなすべきか、まだ完全に決まった訳ではありませんが、私の中では次のような課題に真剣に向き合っていきたいと思っています。
・臨床への還元
研究とは何をやっても面白いもので、特にライフサイエンスは様々な方向性に発展していますので、当研究室でも日々ダイバーシティに富んだ新しい展開に溢れています。ただ、私たちは時間的にもエフォートにも限界があります。何でもできるからこそ、真にいま何をすべきか(何をなさざるべきか)、落ち着いて考えることも必要です。そう考えたとき、やはり私は研究者としてのレゾンデートルである“Physician-Scientist”に立ち返り、研究成果の臨床への還元をもっと重視にしたいと考えています。これまでのcuriosity-drivenな研究指向を大切にしながらも、その成果を医療に活かす展開により一層真剣に取り組んでいきたいと思います。例えば、この10年の研究の中で、リウマチ性疾患を始めとする様々な病気の治療に活かせそうな多くのシーズを見出してきましたが、これらをもっと精査して、真に意義のあるものについては本気で治療法開発までつなげていきたいと思っています。また、数年前からAMEDの支援を得て行っております、生体イメージングを利用した新規組織診断装置の開発ですが、将来的には生検しなくても組織診断が可能となれば、本邦のみならず世界の臨床現場が大きく変革すると思います。こうした夢を、単に夢見るだけでなく、夢を実現していこうという気合を改めてもって行きたいと思います。
・本格的な技術開発
我々医学・生命科学分野の研究者にとって、技術は手段であり、いち早く最新の技術を取り入れて、それを自分のフィールドで活かすことで成果を挙げてきました。このため、常に新技術を察知する“アンテナ”を発達させることはあっても、自らは技術自体の開発に真剣に挑戦することは少なくなっていたように思います。しかし、科学(サイエンス)と技術(テクノロジー)は車の両輪であり、他所のラボの技術開発を待っているのみでは限界があります。真にサイエンスを進めるためにも、自身の問題意識に基づいて新しい技術開発に逃げずに取り組んでいく必要性を強く感じています。例えば、生体イメージングで得られた体内の生きたままの映像をどう解析するのか、如何にしてバイアスを排除して、客観的・定量的に現象を数式として記述するのか、さらには、それらを分子基盤での議論までどうやって落とし込んでいくのか、解決すべき技術課題は山積しています。いままでの10年で、自らで「技術的限界」として逃げていた課題に対して、技術そのものの進展に忍耐強く取り組むことで、サイエンスにも大きなブレークスルーをもたらしていきたいと考えています。
ライフサイエンスの研究は一人では何もできません。私は幸運にしてこの10年間、研究に対するphilosophyを共有できる多くの仲間に出会えて、ともに歩んできて今の成果を得るに至っています。良い研究も良い人がいてこそ前に進みます。今後も人との出逢い、繋がりを大切にしながら、他ではないユニークで新しいサイエンスを拓いて生きたいと決意を新たにしています。今後10年、20年も、どうぞよろしくお願いいたします。
2019年(令和元年)4月
石井 優
経歴
1998年 大阪大学医学部医学科 卒業
1998~1999年 大阪大学医学部附属病院 研修医 (第3内科)
1999~2000年 国立大阪南病院 研修医 (内科)
2000~2005年 大阪大学大学院医学系研究科 助手 (薬理学)
2005~2009年 国立病院機構大阪南医療センター 医員 (リウマチ内科)
2006~2008年 米国国立衛生学研究所・国立アレルギー感染症研究所 客員研究員
(Human Frontier Science Program 長期派遣研究員)
2009~2011年 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任准教授 (生体イメージング)
2011~2013年 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任教授 (細胞動態学)
2013年~現在 大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科 教授 (免疫細胞生物学)
主な受賞歴
日本アレルギー学会・学術大会賞(2006年),日本リウマチ学会・学会奨励賞(2007年),科学技術分野の文部科学大臣表彰・若手科学者賞(2010年),アステラス病態代謝研究会・最優秀理事長賞(2010年),長寿科学振興財団・若手研究者表彰・会長賞(一等賞)(2011年),日本骨代謝学会学術賞(2013年),日本医師会医学研究奨励賞(2013年),日本学術振興会賞(2014年),大阪大学栄誉称号附与(2017年),日本骨代謝学会・尾形学術振興賞(2018年)
学会活動
日本骨代謝学会(理事・副理事長),日本炎症・再生医学会(理事),日本骨免疫学会(理事),日本リウマチ学会(評議員),日本免疫学会(評議員),日本薬理学会(評議員),日本臨床免疫学会(評議員),日本分子生物学会,日本癌学会,日本内科学会,など
その他の記事
・日本骨代謝学会HP「Infinite Dream」:骨の生体イメージング ~どこから来て、どこへ行くのか~
・日経バイオテク,2015年8月31日号「バイオイメージング最前線」(第4回):”動く、動かぬ証拠をつきつける”
・大阪大学医学系研究科メールマガジン2014年1月号「リレーエッセイ」:日本のおもてなしと過剰サービス