ご挨拶
15年目のご挨拶 (2023年) ~ ほぼ折り返し地点を迎えて、次の展開へ
大阪大学大学院医学系研究科・生命機能研究科 免疫細胞生物学教室を主宰しております石井 優です。この度は私どものホームページをご訪問頂き、ありがとうございます。この2023年4月で、私は2009年4月に大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)で、PIとして初めて自身の研究室を立ち上げて14年が経過したことになります。2013年に現職(医学系研究科/生命機能研究科教授)に異動してからも10年が経ちました。定年退職まではあと16年です。これまでに本当に多くの先生方や同僚・共同研究者の支えによって、いよいよ折り返し地点までやってきました。今後もどうぞよろしくお願いいたします。
4年ぶりに挨拶文を一新するにあたって、この4年間を振り返りますと、やはり何といっても重くて長かったコロナ禍が思い返されます。コロナ禍は全世界の人類の生活様式を一変させました。いま、社会は正常を取り戻しつつあるも、この戻りつつある社会は、コロナ前と全く同じではありません。明らかに異なる点は、何といってもオンライン会議の急速な普及による業務の効率化でしょう。おかげで、よほど重要なものでない限り、1時間の会議のためにほぼ一日かけて東京出張することはなくなりました。ただ、一方で、オンラインになったことで、どこからでも参加できるようになり、「欠席」が難しくなってしまいました。いまや、タクシーや新幹線などの移動中などにも会議の種類によっては参加可能になり、また聞いているだけでよい(?)会議であれば、同時に複数の会議に出ることも可能です(聖徳太子のような能力が必要ですが)。そんなコロナ禍をはじめとして様々なこの4年間を振り返り、私としていま思うことを列挙したいと思います。
1.やはり研究が一番。積極的に「ヒマ」を作って、研究とじっくり向き合いたい
コロナが猛威を振るっていた一時期、県境を越える移動も制限され、出張は完全になくなりました。私自身、毎日朝から晩まで研究室にいてて、かなり時間に余裕(ヒマ)ができたことは確かでした。それまでは、忙しく動き回っていることで充実した日々を送っていたつもりでしたが、解放されてみるとそれらがいかに空疎なものであったかを感じました。時間ができたので、ラボメンバーとじっくりと研究の議論をしたり、勉強してみたかった異分野の総説や論文をまとめて読むにつれ、その面白さを改めて痛感しました。そうだ、私はこのために研究者になったのだ。研究に割く時間が制限されるまでに他の用務に忙殺される自分はあるべき自分ではない・・・。
そして改めて感じたことは、研究は面白いということです。そして、自分が面白いと思うからこそ、全てを捧げて打ち込むことができるのでしょう。すべてを捧げるからこそ、良い結果が出る。宿題をこなすように研究したり、生半可なやる気で力を抜いてやっても、決してセレンデイピティは訪れない。自分が実際に手を動かして研究していた頃に分かっていた、その当たり前のことを、しばらくは忙しさにかまけて忘れていたかもしれない、と思いました。Severo Ochoaの名言「Full devotion to Science」は確かに正しい。私たち研究者に最も大切なものは研究であり、いかにそれにじっくり取り組むための時間(ヒマ)を作るか。コロナは大変な災禍でありましたが、私自身、これを機に再認識できたこともあったように思います。
ちなみに、school(学校)の語源は、ラテン語でskhole(ヒマ・余暇)なんですね。紀元前から、ヒマこそが学問の源なんです。
2.研究で世の中の役に立ちたい
分からないことを分かりたい、知られていないことを知りたい・・・こうした知的好奇心が研究者の最大のモチベーションであることは揺るぎないが、税金を原資とする研究費を頂いて遂行しているので、全くの趣味という訳にはいかない。やはり何らかの形で研究成果を社会に活かして貢献することが求められています。この研究の「社会還元」は、少し前までは私の中では、研究者の責務と捉えていた感がありますが、ラボを持ってからのこの14年での様々なことを進めてきた結果、社会に活かすことは決して夢物語ではなく、届きそうな目標になってきつつあります。もう少し背伸びしてもう少し頑張れば、本当に社会の役に立てるかもしれない。そう思えると、また新たなモチベーションが自分の心の中に湧いて出てくるのを最近感じています。知的好奇心とともに、人類社会への貢献といった充実感も得られる。改めて、研究者は特別でぜいたくな仕事ですね。
3.教育の喜び、人と人をつなぎ、高め合う、ハブとしての研究室
PIとしての「折り返し」に際して、これまでの研究室の卒業生の数を数えてみると、(数え方により前後しますが)おおよそ50名ほどになることがわかりました。思い返しますと、異なるバックグラウンドのメンバー各々がそれぞれに特徴があり、それぞれの形で頑張ってくれた結果が、いまのラボを形作ってくれていると感じています。各々が、その人生の中の一時期、うちのラボを通過して、そこで交わり、共同で仕事をすることで、それぞれのキャリアを高め合い、その結果、ラボ自体も高みを目指していく。研究室の主宰者として、こういった場を提供できることを改めてありがたく感じております。後藤新平の有名な言葉に「財を残すのは下、仕事を残すのは中、人を残すのが上」というのがありますが、改めて自分が「教育職」であることに喜びを感じています。一方で、私自身もまだまだ未熟で学ばないといけないことがたくさんあり、自身が学びながら同時並行的に教育をしていくこと必要があると感じています。
長々とした文章にお付き合いいただきありがとうございます。私自身の教授生活の後半戦、職業人生としての集大成に向けてがんばっていますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
2023年(令和5年)6月
石井 優
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経歴
1998年 大阪大学医学部医学科 卒業
1998~1999年 大阪大学医学部附属病院 研修医 (第3内科)
1999~2000年 国立大阪南病院 研修医 (内科)
2000~2005年 大阪大学大学院医学系研究科 助手 (薬理学)
2005~2009年 国立病院機構大阪南医療センター 医員 (リウマチ内科)
2006~2008年 米国国立衛生学研究所・国立アレルギー感染症研究所 客員研究員
(Human Frontier Science Program 長期派遣研究員)
2009~2011年 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任准教授 (生体イメージング)
2011~2013年 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任教授 (細胞動態学)
2013年~現在 大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科 教授 (免疫細胞生物学)
主な受賞歴
日本アレルギー学会・学術大会賞(2006年),日本リウマチ学会・学会奨励賞(2007年),科学技術分野の文部科学大臣表彰・若手科学者賞(2010年),アステラス病態代謝研究会・最優秀理事長賞(2010年),長寿科学振興財団・若手研究者表彰・会長賞(一等賞)(2011年),日本骨代謝学会学術賞(2013年),日本医師会医学研究奨励賞(2013年),日本学術振興会賞(2014年),大阪大学栄誉称号附与(2017年),日本骨代謝学会・尾形学術振興賞(2018年),日本薬理学会・江橋節郎賞(2019年),日本リウマチ学会・学会賞(2020年),大阪科学賞(2020年),日本免疫学会賞(2022年)
学会活動
日本骨代謝学会(理事・副理事長),日本リウマチ学会(理事),日本炎症・再生医学会(理事),日本骨免疫学会(理事),日本免疫学会(評議員),日本薬理学会(評議員),日本臨床免疫学会(評議員),日本分子生物学会,日本内科学会,など
その他の記事
・公益財団法人テルモ生命科学振興財団・生命科学DOKIDOKI研究室「この人に聞く、生命に関わる仕事って面白いですか?」
・日本骨代謝学会HP「Infinite Dream」:骨の生体イメージング ~どこから来て、どこへ行くのか~
・日経バイオテク,2015年8月31日号「バイオイメージング最前線」(第4回):”動く、動かぬ証拠をつきつける”
・大阪大学医学系研究科メールマガジン2014年1月号「リレーエッセイ」:日本のおもてなしと過剰サービス